惑星レベルでの環境破壊の根本は、人間と自然を分断した資本主義にある。マルクス「物質代謝」概念からの把握

最近刊行されたもので、偶然入手したので読み始めたところ、やめられない止まらないという状態になった。とても意欲的な著作である。

『大洪水の前に〜マルクスと惑星の物質代謝』/斎藤幸平著/堀之内出版/2019年

帯には、「2018年、ドイッチャー記念賞を日本人初・史上最年少」で受賞したと書かれている。

マルクスやエンゲルスが書き残した著作・草稿・研究ノート・書簡など膨大な資料をまとめる全集刊行(マルクスエンゲルス全集=MEGA刊行の実践)が国際的に長年続けられており、マルクスが生涯にわたって行った究明が日々明らかにされてきている。その研究を行なっている日本の若い研究者の著書。

本書の1章〜2章にかけて読み進めたに過ぎないが、面白い。

マルクス(200年も前に生まれた人。1818年5月生まれ)は自らの理論を確立していく早い段階から、人間と自然を「物質代謝」という概念をもちいて、両者が相互に浸透し依存し合う関係として捉えた。人間は自然の一部であるが、労働を通じ自然・土地に働きかけ自然を変えながら、その中で自らの生存条件(生産物)を作り出していくという関係である。
資本主義以前の社会では、土地の生産力を無視した生産規模拡大や、乱伐・乱獲といった自然を破壊しつくすような動機は生まれる余地がない。もしそのようなことをすれば、自然に依存する人々は生活はたちまちのうちに行き詰まることになり、社会は破綻するから。自然環境と人間生活が調和する生産のあり方をしていたのだ。しかし、資本主義社会では、自然・土地が一部の者(資本家)の私有になることで、人間=生産者が自然と切り離され、両者の調和的な関係が失われ(自然と人間の物質代謝の分断・分離・中断)、資本の増殖欲による生産規模拡大へとつきすすむ。資源の浪費、乱獲、乱採掘がすすみ、自然が破壊されていく。


今日の環境問題、温暖化ガス排出問題等々は、資本主義制度によって生産者である人間(労働者)から土地(生産手段)の所有権がうばわれたことによる「人間と自然の物質代謝」の破壊がもたらす帰結である。マルクスは、この人間と自然との非調和的な関係をもたらした根本原因である資本主義における土地(生産手段)の私有を廃止し、再び生産者(労働者)の手へと所有権を戻すことによって未来社会(共産主義社会)は実現できるのだという結論を見出す。
従来説明されてきた有力な社会主義・共産主義像は、荒っぽく言えば生産力が資本主義をはるかに超えた高い生産力を持つ社会であり、その豊かな生産力を一部の資本家ではなく多数の人々へと還元・配分できる社会なのだ、というものだった。
しかし、マルクスが若い時代から捉えていた未来社会(共産主義)とは、本来の人間=自然が一体となって調和のとれた社会へ再び還ることであり、資源の浪費や自然破壊のない本来的な自然と人間の物質代謝のあり方へと立ち戻ろうというものではないだろうか。豊かな社会というのは、物が溢れた社会、音速旅客機で世界を瞬時に行き来できる社会、世界の食物が安くすぐに手に入るというものだけでは測れない、奥深い豊な内容を持つものではないだろうか。